電気も無い、ガスも無い・・・。
でも温かいものが欲しい・・・。
【SOLID FUEL】固形燃料
そんな時に便利なアイテムに固形燃料があります。ちょっと豪華なお食事に、ちっちゃな鍋を温めたりするやつ。青い色の円筒形の固まり。
マッチ1本で火を付ける事ができて、燃焼時間は約20分。嫌な臭いや煙も出ない。
あ、でも、固形燃料に火を付けても、鍋をずっと手で持ってる訳にはいかないし、たぶん手が熱い・・当たり前だけど、何か鍋を乗せておく台がいるよね。
【TRIPOD】五徳
ゴトク、漢字だと「五徳」。なんか「お得」な感じもするけど、とにかく固形燃料で、何かを温めるためには、このゴトクが必要だ。
会社の仕出し弁当で、冬の寒い時期にある期間限定弁当、鍋焼きうどん弁当を頼むと付いてくるやつ。
そう、あのステンレス?で出来た、ちっちゃい台。
さっそく「鍋焼きうどん弁当」を注文して、弁当屋さんのゴトクをじっくりと調査してみる。
【RESEARCH】調査
まず、材質は表面の感じと、錆びている形跡がないので、ステンレスだ。もう、このあたりは仕事柄直観で判る。板厚は、どのパーツも約1mmほど。プレス成型されたパーツをスポット溶接で接合してある。
無駄な形状もなく、意外と軽いし丈夫だ。
価格も安いものだろう。
ほめる事ばかりで、文句のつけようがない。
じゃ、これで終了・・・。
って、終わるわけにはいかない。
そう、PLATES(プレーツ)のラインナップとして作るんだから、これから開発するゴトクは、収納時はバラバラのペッタンコになる。
この弁当屋さんのゴトクは、ペッタンコにならない。重ねればそれなりに容積は小さく済むけど、例えば30セット持っていくとしたら、けっこう大変だ。
PLATES(プレーツ)で作れば、30セットでも、たぶん片手で持てる厚み、容積で済む・・・。
単純な形だし、スグに設計出来そうだな・・・。
【THE FIRST】最初
作ろうと思うと、居てもたってもいられない性格。自宅だろうが、愛車の運転中だろうが、ちょっとした時間を狙って、アイデアを練る。
パッと思いついたアイデアを記録する。昔は紙とか鉛筆が必要だったけど、今はスゴク便利なスマホってのがある。「手画きメモ帳」ってアプリを入れておくと、スマホの画面に、思付いた形状なんかを簡単に記録しておくことが出来る。
・・・で、最初に画いたゴトクのイメージがこれ。
【TRIANGLE】三角形
なんだこれ?グジャグジャで解らない?別に解ってもらえなくていいです。(笑)
なにしろ、最初に頭に思い浮かんだのは、井形の形状。
4枚のプレートを井形に組んで基本フレームを作る。で、真ん中に固形燃料を載せるステージとなるプレートを載せて、全体を固定する。
・・・全部で5つのパーツ。
パーツが多いネ・・・。
それに井形の形状が安定感に欠ける。安定の基本は三角だ。三角形なら基本形状として最も安定する形だ。こっちのほうがいい。安定の基本は三角形だ。
こんな感じ。
で、まず三次元CADを使って描いてみたのがこんな感じ・・・。
【DIMENSION】寸法
まず、高さ方向の寸法は大体決まる。まず1番下から。
固形燃料の炎の熱がテーブル面に伝わらない高さ、だいたい2cmだ。
固形燃料自体の高さが約3cm、そして固形燃料から鍋底までが、3~4cm。(この距離は、固形燃料の説明書に記載されている)
それ程むずかしい事ではない。自然と寸法が決まってくる。
で、問題になるのが、横?水平方向の寸法の決定。
3枚の板を使って3角形を形成することを想定した場合、3枚の板をギューって寄せると、鍋の底を6箇所から均等に支えることが出来るが、3枚の組み合わせ部分が中央に偏るので、外側での安定感に欠けてしまう。
かといって、3枚の板組合せ箇所を外に持っていくと、鍋の支えが、実質3箇所になってしまい、鍋の安定感に欠ける。
もし、グラついた鍋がひっくり返したら、大惨事になってしまいます・・。
安全が第一なので、これは絶対にダメ。
結局、一人分の小さな鍋の大きさ、直径15cm程の鍋を載せることを優先的に想定して、水平方向の寸法を、ちょーどいい具合の所に決定しました。
で、さっそく3Dプリンターで試作します。(早っ)
スゴイですね、3Dプリンター。まだまだ高価で希少な機械ですが、弊社ではブッチャケあまり使われてなく(社長には内緒です・・)、いつでも使える私の夢のマシンです。
いやぁ、ホントありがたいです。
で、できたのがこんな形。ABS樹脂製ですが、形状の検証は充分できます。
板厚の設定も、0.8mmなので、材料費もかかりません。
工夫したポイントは、センタープレートが3枚のプレートに入り込み、形が崩れるのを防ぎます。
(おーナイスアイデア!←自画自賛)
【REVIEW】批評
さっそく、何か載せてみたくなる。
机の上を見渡すと、ちょうど大きさの良さそうなのがアメの入ったビン・・。
ちょっと重いかな?と思いつつも
こいつを載せてみる・・・
グニャ・・・
(汗)
やっぱり・・・
(泣)
イヤ、これはABS樹脂だから弱くて当然・・・と思いつつも、やっぱり不安になります。
う~~~ん、補強を入れよう。
上部に3枚のプレートを橋の様に渡せば、強くなるよね。
で、もう1回3Dプリンターで試作・・。
今度は、アメのビンを載せても大丈夫。イエーイ(喜)当たり前か・・。
具合は良さそうなので、社内の製造部にお願いして実際のレーザーで抜いてもらいました。
当然、忙しい業務の中の試作なのでバリ取りはやってもらえず、自分でバリ取り。
ヘアライン(細かい傷を付けて表面処理すること)をかけてピカピカに仕上げました。
おおぉ~。豪華に見えるし、キレイだ。全体のバランスもいい。
良さそうなので、さっそく固形燃料を載せて、試してみたくなる。
まずは・・・・。
【RICE】米
いきなりゴハン。
ネットで見つけた固形燃料で1合ご飯を炊く、通称「自動炊飯」を試してみる。
自動炊飯とは、ちょうど固形燃料1個の燃焼時間で、約1合の米が炊けるかららしい。
炎が消えるまでほっておけるけら、その名前が付いたらしいのですが、
いきなりゴハンを炊いてみた結果がこれ。
ちょぉっとコゲてるけど、炊けました。
自動炊飯をナメてました。
やっぱり、様子を見てないとダメみたいです。
でも。
ちょっと感動。
さっそく炊き立てを食べてみる。モグ×2。
うまい。
やっぱり、うまい。
どうしてでしょう。
炊き立ての温かさと、冷めたゴハンをレンジでチンし直したゴハン。
温度や、水分は、ほぼ同じはずなのに・・・。
おいしいんですよね、これが。
風味(ふうみ)?の違い?
完成ですね。
この後、
何度か試験を繰り返して実証。性能に問題は無し!
さて、
市販化しますか~(嬉)
改めて、販売価格を決定すべく、原価の計算をする・・・。
・・・(汗)。
まずい、
価格が高すぎる。こんな値段じゃ誰も買わない。
どーしましょう。
「う~ん」
と頭を抱えていると、上司からひと言。
「これ、要る?」
「これ、イル?」って、あなた。
(あなたぁ?)
これは大事な補強で・・・この補強が無かったら、グニャグニャで・・・、
やってみますか。(←素直がトリエだけの私)
補強の部品を3つ外して、ちょっと大きめの鍋に水を入れて載せてみる。
不安だなぁ。
や、意外と大丈夫。
ステンレスの固さ(柔軟性ね)を改めて調べてみると、ABS樹脂の約8倍(固い)あることが判明。
悪くないです。
せっかく「PLATES」のロゴを入れたパーツが無くなってしまうのは惜しいですが、価格を下げる為にはしょうがないです。
よし、これでいこうと、
いろいろ試してみると1つ問題点が発覚。
(ガーン・・・!)
補強の部品が無いので、炊飯用に推奨しているアルミの容器の座りが良くない。
アルミ容器を載せる角度によって、容器が斜めになってしまいます。(ぐしゃぁ~)
いまいちだなぁ。
強度は落ちるし、品質的にも、いまいちだ。
安いが、品質も悪いのではしょうがない。
またしても頭を抱えていると・・・。
今度は隣から、自分が悩んでいる様子を見ていた同僚がひと言。
「ひっくり返せばいいじゃん」
・・・。
【WHAT?】何?
え?ひっくり返せばって、何言ってんの?
はぁぁ?!
バ〇じゃないのぉ?
フレームを炎であぶってどうすんだよ、
火の付いたロウソクを、その上から手で持てって言ってるようなもの。
あっついじゃん。
もぉぉ、ひとごとだと思って適当な事言ってぇ・・。
いや?
まてよ?
フレームをあぶらないように、三角形をもっと大きくしたら、
構造的にも強くなるし、固形燃料を載せているプレートには、固形燃料の重量しか、かからないから、支えるだけで強度は要らないよねぇ・・。
そんなに悪くないアイデアかも。
「バ〇」とか心の中で言ってしまってゴメンナサイ。
となると、もうレーザーで試作してなんて、悠長な事、言ってられません。
金ノコを持ち出してギコギコ×2。
目ケンで試験中の試作品にマジックで印を付けて、組合せ部の切込みを入れる。
どうよ。
あとは、固形燃料を載せるプレートを、やはり金ノコで切込みをいれて固定する。
さ、試験、試験。
実際に固形燃料を燃してみたところ、フレームが炎の広がりの邪魔になっていたので、切込みを入れて対処しました。
炎の広がりも確保できるし、言う事ありません。おおぉ!!
【REBORN】再生
再度、設計のやり直し。
基本的な構造が、逆さまになってしまったショックを抑えきれないまま、設計にとりかかる。
でも、うまく行きそうなワクワク感が、細かい設計作業を後押ししてくれる。
3枚の板で3角形を構成する。
そして、
3箇所から固形燃料を載せるプレートを固定する部分の設計。
ん?
ここ、
これ、バネっぽい感じ
ちょっとつまんで変形させると弱い反発力がある。
この、ちょっと広がろうとするバネの力を利用して、固形燃料を固定させるプレートをロックさせちゃえばいいんじゃない?
キュって、つまんでから固定用の穴に入れる感じ!?
プレートが変形した状態を想定して穴の形状を設計する。
・・・
簡単そうだけど、そんな設計やったことないし、
普通の設計ではやらないし、出来ない。(?と思う)
でも、そこを何とかして(ここは企業秘密です・・)
穴の形状の設計をしました。
【GOLDEN RATIO】黄金比
ここで、どうしても設計上こだわりたかったポイント。
そう、黄金比を設計に入れ込むこと。
自動車や家電製品でも、デザインに取り入れることはよくあります。
黄金比(おうごんひ)1:1.6180339887・・
古代ピラミッドの三角形の基礎となる比率・・
え?
どこにそんな黄金比が入ってるって?
実は、ここ。
斜めの部分。
更に、こんな細かい所にも。
組合せの切込み部分の、斜めのところ。
どうでも良さそうな所にも、ミリ単位でこだわってみる。
とにかく、ただ設計をしない。
強度的、構造的、機能的に優れた設計。
そして観た目の安定感。
その物を見た瞬間に、感覚的に美しいと感じる設計を常に目指す。
一度は大きな設計変更になりながらも、結果的には構成する材料を減らし、
機能的にもアップさせることができた。
同じ目的を果たすアイテムであれば、たとえ1gでも少な材料の方がいい。
いいに決まっている。
資源の無駄を減らすことができるし、
加工が減れば、それだけレーザー加工機を動かす電力も減る。
そんな思い、願いが、
このゴトクの設計にはあります。
最終的に使う人が喜んでくれればいい。
安全に使えて、笑顔を作ることができたら、それでいい。
でも、それには、こんな設計者の想いがある。
それを少しでも知っておいてもらえたらと思います。
【END】終わり